機材の保守、調整をしっかり行い、末永くベストコンディションで使いましょう!^^
お約束ですが、分解、改造等は自己責任でお願いします。
■ビクセン ニューアトラクス バックラッシュ調整 (2008.1.2公開)
ビクセンの中型赤道儀ニューアトラクス、SkySensorやStarBookでの高速自動導入のために、モーターはDCモーターですが
納得のいくガイド性能を示す為、パルスモーター絶賛であった私も許せております。
問題はどちらかというと調整不備ではないかと思えてなりません。
すこし調整するだけで見違えるようにガイド精度が上がり快適な赤道儀として本来の性能を発揮してくれます。
このニューアトラクス、おそらく同社のVC200L等で長焦点での撮影を狙って購入される方も少なくないと思います。
ボタンを押しても直ぐに星が移動しない(タイムラグがある)のが普通ですが、あまりに大きくなりすぎるとガイドが
不安定になったり、スカイセンサーで動きがビクついたりする「シャックリ現象」が出たりします。
これはモーターの端についているエンコーダ(モーターがどれだけ回ったか位置を測る装置。玉式マウスと同じしくみ)
はモーターについているギヤボックスの出力端ではないので、バックラッシュが多くなると実際の位置と、エンコーダの
拾った位置とに誤差が生じ、コントローラは「送ったつもり」なのに予定位置にいないため行ったり来たり、、、という
仕組みだと思われます。
また、オートガイド時、特に長焦点で失敗が絶えない方はこのバックラッシュ(特に赤緯側)も疑ってみるといいです。
ただ、この調整はかなり根気と時間がかかるので、さすがにメーカー生産時点で徹底的に追い込んでいるとは思えません。
バックラッシュは機械動作に必要な、いわば必要悪なのですが、大きすぎるのも問題という悩ましい存在です。
考え方としては、ギヤが軽やかに動作できるギリギリの最小値を探すことです。
赤緯側のギヤ露出は至って簡単です。 写真では外して調整していますが、三脚に載せたままのほうが作業しやすいです。
赤径クランプを解除しギヤボックスを上にします。 すると赤緯ギヤボックス下部に2箇所のネジ穴があります。
ここのキャップボルトをゆるめればダイキャスト製のカバーがはずれて下の写真左上のように赤緯ウォームとモーターが
露出します。 次に赤緯モーターを外します。 ネジは3箇所。 モーターの後ろから見ると奥に1箇所、そして表から見える場所に
2箇所の3点でモーターは本体に固定されています。 いきなり外れて配線を断線させてしまわないようにご注意ください。
コネクターで分離できますが外す必要はありません。 外した状態で適当なモーターの固定穴をつかって赤道義に
仮止めしておけば作業できます。 目的はウォーム軸のスパーギヤを手で回すことと、バックラッシュ調整用のネジを
回すスペースを稼ぐためです。
ウォーム軸のスパーギヤを、モーターの代わりに手で回してみてください。 カクカクとかなり大きいアソビがあるはずです。
駆動中、反対側に動かそうとした場合に、このカクカクの幅だけモーターは空転しないと動き出さないわけです。
このカクカクを調整して小さくすることで俊敏な動作が可能となります。
調整はウォームブラケット(ウォーム軸をつつんでいる金属製の円筒枠)を本体に固定している四隅のボルトを緩めることから
始めます。 対角の順でゆるめていきます。 左上、右下、左下、右上、、等クロスするようにすこしずつゆるめます。
「ピチッ」と音がして緩みはじめたら次のネジ、、とい具合で、完全に緩めきってしまう必要はありません。
この段階で今一度ウォーム軸のスパーギヤを手で回してみてください。 さっきよりアソビが減っていませんか?
四隅のボルトを緩めるとバックラッシュは減少する傾向にあるようです。 おそらくウォームホイルに真っ直ぐ
当たっていたウォーム軸の関係が崩れるからでしょう。 特に下の写真で赤鉛筆でマークされた3番、と2番の
ボルトを緩めると、バックラッシュは減少しキツクなる傾向があります。 ウォームシャフトをウォームホイルから
引き離す方向にかかっていた力が抜けるためだと思われます。 ということは
ウォームと反対側のネジ(下の写真3番、2番)をしめると調整は緩くなる為、それを差し引いた調整
をしなければなりません。 参考までに、管理人が調整時にバックラッシュ量を決定しやすいと感じている
締め付け順序は以下の写真の順番です。
メインの調整は、GP赤道義と同じです。 ウォームブラケット下部に、3箇所の小さい六角穴ボルトがあります。
中央が押しネジ、両脇が引きネジです。 構造が分かるようにウォームブラケットを分離したのが一番上の写真右下のものです。
真中の出っ張っているもので隙間量を決定し、左右の引きネジで当たり方が垂直になるように調整するとお考え下さい。
バックラッシュを減らしたいのですから、中央のネジをほんの少しゆるめ、左右の引きネジを同じ分量だけしめてやります。
この時、ウォームブラケットを固定する四隅のボルトは完全に締めてはいなくても軽くしめたくらいの状態が調整しやすいです。
調整し、手で回し、ガタがほんの微量になるように追込みます。 決まったと思ったら四隅のボルトを締めて完全に固定してください。
この段階で再び手で回して確認。 ガタがうまく減りましたか? 手で回して固いという状態では締めすぎです。 ウォーム軸を
曲げてしまいますから即ゆるめて再調整してください。 調整ネジのまわしかたは、「ちょっと力が伝わったかな、、」くらいの微妙なものです。
回したという感覚では調整が荒すぎます。 本当にちょっとした力加減で変化するのです。
勘違いなさる方が多いようなので書き添えますと、大切なのは「締め付け量というより、当り方」 です。
ウォームギヤの当り方がいまいちピンと来ない方はこちらなど参考になるかと思います。
小原歯車工業HP内の「ウォームギヤの歯当たり」
(機械設計でお世話になっている方も多いのではないでしょうか小原のギヤ)
このいずれの調整もこの機構で可能になっているのがご理解いただけるはずです。
じっくり調整してうまくいったと思った段階で四隅のボルトを固定し、再度手で回してみてください。こんどは赤緯軸を一周させてください。
今の位置がわかるようにウォームホイルに鉛筆でしるしをつけてもいいです。 すると偏芯が少しはあるはずですから途中で
バックラッシュが大きくなる場所、逆にちょっと固くなってしまう場所があるかと思います。 これがピリオディックモーションとして
現れます。 一番バックラッシュが少なくなる場所をみつけたら、ウォームホイルにしるしをつけなおし、ここを基準にして調整を
追い込んでください。 これが調整のキモです。
一番バックラッシュが少ないところで調整しておかないと、低温時に金属が収縮してバックラッシュ量が減少し、
ギヤが固着、動作不能になることがあります。 モーターを焼いてしまう恐れもあるのでご注意ください。
赤径軸は、極軸望遠鏡キャップを外し、その面についている全てのボルトを緩めればギヤが露出します。
こちらは赤緯軸に比べてはるかに頑丈な調整、固定機構になっています。 こちらは六角ボルトの頭でおしつける
構造になっています。 青色のネジロックで固定されているあたりからも念入りに調整してあることが分かります。
こちらは調整することは少ないのですが、あまりにバックラッシュが大きい場合には赤緯軸と同じ手法で調整してください。
調整後は再びネジロックで固定すると安心です。 後ろから見て左側の銘板をはずすとスパーギヤが露出します。
こちらはモーター側のスパーギヤを外すだけで手で回す事ができるようになります。
調整が完了したらモーターを固定しているネジをゆるめて、スパーギヤ同士のバックラッシュを調整して完成です。
別記事で紹介してありますロータリー接点清掃の場合にも、赤径軸のスパーギヤを外して、フリーにしてやると
作業がしやすくなります。
こうして調整した赤道義、フィールドで試すと、本当に惚れ惚れします。 動きが軽やかなまま、ボタンをおしても
即反応。 長焦点のガイドも面白いほど決まるようになります。
アトラクス愛用の同志の皆様 参考にして頂ければ幸いです。
ただし、
本来調整はメーカーに返送するというのが大前提です。
自信のない方、メーカーさんに迷惑かけちゃいそうな心配がある方は迷わず最初からメーカーメンテに出してください。
他社と比較してかなり良心的な価格で対応して下さいます。