これから天文趣味を始めようという方、きっと耳慣れない用語が平然と飛び交うWebや掲示板、
雑誌に戸惑うことでしょう。 入門書を熟読されていれば殆どの言葉の意味は理解できると思いますが
私がこの趣味をやり始めた頃、やっぱり用語が分かると理解しやすいなぁと感じたのを覚えています。
そこで素人が素人に薀蓄をたれてしまう事になってしまうかもしれませんが、備忘の意味もこめて簡易な用語集を
作成していきます。 少しばかりのお役に立てれば幸いです。
管理人の記憶がアヤシイトリビアを、Webを巡ったり
本を読んだり、プラネタリウムで聞いたりして補強しつつ読み物風にしてみました。
極めて主観的な視点の用語集もどきをお楽しみくださいませ。
【い】
■イエナ (JENA)
天文ファンや写真ファンの場合、有名なドイツの光学機器メーカー カールツァイス・イエナの事を指す事が多い。
カール・フリードリヒ・ツァイスによって創始されたカールツァイス社は、ドイツのイエナにあったため
本家とも言える。 カールの死後、生前の仲間であったエルンスト・アッベ(あのアッベ・オルソ式アイピースの設計者)が
その全ての資産を引き継いでカールツァイス財団の元で管理されることになった。
アッベ氏のお話は心打たれるものがあるので是非Web等で調べてみて欲しい。
第二次大戦時に東西に分断されてしまい東側はイエナ、西側が単にツァイスと言われることが多いようだが、
現在は東西統合により元通り一つのカール・ツァイス社になっている。
今イエナといえばイエナ工場製という意味になるだろうか。
ところでそのイエナ工場は現在のプラネタリウム投影機の基礎となった、ツァイス1型を世に送り出した事でも有名である。
国内にも複数イエナ製の投影機が納入されたが、戦火に焼かれたり、老朽化、客離れ等による閉館で
現在も稼動中のイエナ製大型機は明石市天文科学館にあるユニバーサル23/2型たった1台のみとなってしまった。
戦火で消失した設計図も、イエナのマイスターのアタマの中に入っていたために
図面を起こしなおし生産できたのだ という逸話もある。ツァイスマニアなら明石の投影は是非みておいてほしい。
なお戦後に日本に入った西側のいわゆるカールツァイス製の大型機も、名古屋市科学館にあるW型だけとなってしまった。
いずれも機械式で惑星の運行を再現するという時計のような精密な機械で、映し出す星空も大変美しく多くのファンを魅了している。
実際に夕空に星が現れる順番、薄明に星が消えていく順番、見える星の雰囲気等、実際の星空を実によく再現している。
表現される星の数や星像の大きさのような数字によるものではない。
これは明らかに設計者が本物の星を謙虚に観察していたからに違いない。
イエナは自然科学の総本山ともいえる街だったからだ。
これら旧式の投影機を整備できるマイスターも高齢の一人だけ(らしい)となり、整備できる人間が他に居ない事等により
いつまでも楽しめるわけではなさそうだ。名古屋市科学館のW型も2010年の立替で引退となる。(だが次もツァイス製の最新鋭を
入れてくるあたりはどうやら館にはツァイス製投影機に相当な思い入れがあるようだ。 完成すれば35mドームで世界最高の大きさ。
コニカミノルタの全天動画投影システムも組み合わせ、ドイツ最高のマイスターの職人芸に日本の誇るハイテク投影システムで
最強のハードを備えるプラネタリウムとなるのではないだろうか。) 思いっきり脱線したが、イエナとはプラネタリウムファン、
天文ファンにとって特別な意味合いのあるメーカー(工場)なのだ。
JENA工場の刻印の入ったカメラレンズ、双眼鏡、天体望遠鏡は一部のツァイス狂には大切なアイテムなのだろう。
■イオンテール
彗星(ほうき星)の尾は太陽に対して反対側に伸びるが、その尾は2つに分かれて伸びて見えることがある。
一方をイオンテール、もう一方をダストテールと呼ぶ。
ダストテールは白っぽく曲がっているが、イオンテールは青っぽい色で真っ直ぐな尾として認められる。
尾は太陽からの強烈な太陽風(電磁波(プラズマ))により核になっている氷と塵がまじった物質が
撒き散らされるものだが、中にはメタン等のガスも封じ込められておりそれが太陽からの強力な、
プラズマより電離(分子が陽子と電子が分離した状態。イオン化している状態)し、光を放つものがイオンテールである。
その為、太陽風(プラズマ)の影響をモロに受け、太陽風とは逆向きに伸びた直線的な尾となるが、
一方のダストテールは微細な粒子の為、軌道上に置き去りにしながら移動してくるような事になる。
その為曲がって見えるという認識で良いのではないだろうか。
なお両者の観察をモノクロ写真で行う際には、放つ光の波長が異なることを利用して、フィルターで
分離して撮り分けることができる。 「コメットフィルター」とよばれる2枚組のものが過去にケンコーから
発売されていて利用されたハレー世代の天文ファンも多いのではないだろうか。
■イカルス
ギリシャ神話に登場するイカロス。 空を飛びたかった人だが墜落死してしまうエジソンの先祖のような人。
彼の羽は高く飛びすぎた為に太陽の熱で溶かされてしまったのだ。
天文ファンならイカルスといえば小惑星の名前(太陽に一番近い惑星、水星より内側を通る!)
か、ビクセンの販売していた入門用天体望遠鏡イカルスあたりを思い浮かべるのかもしれない。
空だって飛べるさ〜 といったところだろうか。 ネーミングとして少年の心を感じさせ悪くないものだ。
■位相差コート(フェイズコート)
双眼鏡にはクランク状になったポロプリズム採用機と、まっすくな形のダハプリズム採用機に
大きく二分できるだが、主にダハプリズムの一部高級機に施されている特殊コーティング。
双眼鏡は倒立像(上下左右逆像)のものを、正立にする為にプリズムで上下左右を
ひっくり返すのだが、その為内部で上下、左右それぞれ2回ずつ合計4回の反射で向きを復元する。
ダハプリズムは、複雑な形状をした2つのプリズムからなり、入射側をペシャンプリズム、
接眼側をシュミットプリズムと呼びます。 シュミットプリズム側の形が家の屋根のような
形になっておりとがっていますが、この2つの面からなるダハ(屋根の意)面に施される。
左右のダハ面に入った光は互いに逆位相となる為偏光を生じます。
像に害を及ぼす偏光をこのコーティングでカットすることで適性にする仕組みで
大変高度な技術が要されるようです。
下はダハ面で像が反転される様子の模式図。手前から入った光が上に抜けると
見てください。 2面つのダハ面で像がひっくりかえされますが中央と左右で光路長が
変化してしまう事が理解できると思います。 つまり位相が一様に反転するのではなく
位相がズレながら変化していく為悪影響を及ぼします。
(イメージしやすい例が無いのですが、、見当違いな例えだったらスミマセン。
例えば洗面台にある2枚の鏡をV型(ダハに見立てます)にしてその真中に自分の顔を置いてみてください。
斜め逆向きの顔が左右に見えますが角度によっては奥まで連続してズラズラーっと並んで見えます。
1枚目の絵以外がゴーストのような邪魔な像だとしましょう。
反射した光の波長は元の光に対して必ず偏光を伴っていますから、ある角度で反射してきた
光だけをカットしたら欲しい像だけ取り出せます。 そんな都合のよいものがあるのでしょうか?
釣りのときに反射してみにくい水面の下の魚を見やすくする偏光グラスがちょうどそんな道具です。
例が適切ではないかもしれませんがイメージ的に、そんな感じに余計な像をカットしてやることで
ビヨーンと伸びる光条をカットしてやろうという仕組みが位相差コートってところで、
管理人の認識のヘボさを露呈しておきます。)
■EDレンズ
Extra-low Dispersionの略でED。 異常分散硝子(特殊低分散硝子)を利用して色にじみを抑えたレンズの総称。
レンズを透過した光はプリズムのように虹色に少なからず分光(分散)してしまう。
分散の度合い(アッベ数。逆数なので数が大きいほど分散が少ない)は硝子の種類によりことなり、
複数種の組み合わせにより各色が一点で焦点を結ぶように
工夫するが、できるだけ最初から分散しにくいレンズ(異常分散)を使用したほうが色にじみ(色収差)は
大幅に軽減できる。 アッベ数がものすごく大きなガラスといえる。 光学ガラスの種類でいくとFK系列。
クラウンガラスの一種に分類されます。 FKは弗珪(フッケイ)クラウンガラスの意味です。
(ちなみにアクロマートレンズではクラウンガラスとフリントガラスの組み合わせですが、クラウン側は大抵
廉価なBK系列。双眼鏡のプリズムではBKやBakが使われます。このFKとかBKという記号は
光学ガラスの大手ショット社がつけたもので、類似のものも慣例で同じように呼ばれていますが
厳密にはショット社の商品名です)
EDレンズを使用した望遠鏡は通常アポクロマートレンズに分類され
色収差が大変すくなく写真用途によく用いられるものです。 ガラス自体の値段が通常の数倍しますから
口径が大きくなるとおそろしく高額になるものです。
■異常分散ガラス
→EDレンズ参照
■いっかくじゅう座
冬の星座でオリオン座の東隣にある。 英語で言うところのユニコーン。
これは神話でもありそうなものですが、なぜか聞いたことがありません。
比較的新しい星座の為に神話がないそうです。 南天には顕微鏡座とか
六文儀座とか当時のハイテク系の星座なんかもありましたっけ、、、、。
天体写真では人気の散光星雲がもりだくさんの豪華絢爛エリア。
バラ星雲、コーン星雲等撮るものに困りません。 冬の天の川のなかにありますが
あまり明るい星がないので星座ではないので、割に人気があるエリアではありますが
結構結びにくい星座だと思います。 星座は結べなくても星雲の位置だけは分かるという
偏った方も少なくない!?
■一等星
一番明るい星、、、、と言ってしまえないところが苦しいのですが、大抵は目立った星座の中で
一番明るい星です。 というのは0等星とかマイナス○等星なんてのがあってさらに明るいものが
あったりする為です。 肉眼で見える星を6段階に分けて、一番くらいものを6等星、主だった一番明るい星を
1等星としましたが、1等と6等の間には平均して100倍の差があることをハーシェルが発見しました。
その後ポグソンの提案で1等あたり2.5倍にしようということになり厳密に調べたら1等星よりも明るい
分類が出てきたということで0等、マイナス等級の登場となったわけです。
ところで近い星ほど明るく、遠い星ほど暗いという事になるのですが、もともと明るい星か暗い星かの違いか
判断がつきかねます。 ですので同じ距離においてどうなのかという話をしたい場合にはこれとは別に
絶対等級で表現します。 これはまた別項目で。 私たちが一等星といっている等級は
見かけの等級だということを知っていると天文ファンらしいかもしれません。
■一番星
夕暮れのまだ明るさが残る空(薄暮)で一番最初に光る星として光り輝く星。
宵の明星といってもいいかもしれない。
それは惑星である事が多いが、特に中でもマイナス等級の明るさを放つ金星は一番星としてのイメージ
として多くの人がしっくりするものがある。 金星は地球よりも内側を回る内惑星なので季節によっては
夕方ではなく明方の明けの明星として登場する。 また太陽系一の巨大惑星である木星が
位置によっては一番星となることや、赤く輝く火星がその役につくこともある。
時期により惑星が夕刻に昇っていない場合、冬ならばシリウスのような明るい恒星も
一番星候補だ。 さて今日の一番星は何だったでしょうか?
■イプシロン
星座を形作る星にはα、β、γ、、、とε(エプシロンまたはイプシロン)のように明るさの順に
ギリシャ文字のバイエル記号がふられているがその5番目。
つまり例外はあるがその星座の中で5番目に明るい星ということになる。
が、、、おそらく天文学にまったく興味がなく天体写真に軸足がある星趣味な人には別の
意味合いのほうが強そうだ。
タカハシの生産する写真用天体望遠鏡、εシリーズを思い浮かべるだろう。
外観はとても短焦点なニュートン反射のように見えるが中身がまったく違う。
まずその明るさたるやF2.8!! 反則のような強烈な明るさ。双曲面鏡の主鏡を持ち
EDレンズを含む補正レンズとの組み合わせで淵まで針で突いたようにすごく小さい星像で
収差を徹底的に除去している写真専用のアストロカメラである。生データをみて唖然とした。
(眼視では殆ど使い物にならないと言われる)
筒だけで50万近い超高額な望遠鏡だがこのくらいのものを投入しないと雑誌入選は
よほどの強運やセンス、新機軸なくしての入選はないだろう。
像が最初から全然ちがうのだ。 よって天文雑誌のコンテストはほとんどε。これは面白くない。
ではεを買えばだれでもすぐ凄い写真がとれるかというと大間違いでさらにそれを
使いこなすだけの技量も必要となるはず。 ただ今の天体写真フォトコンはある程度の
お金がなければスタートラインにすら立てないのだ。 まさにここまで格差社会!?
予算○○円までの部とかそういうカテゴリー分にしてほしい。 あるいは昔のジュニア部門のような
純粋にワクワク感のある楽しげなコンテストに、、 このままでは機材自慢コンテストになりかねない。
こんなことでは少年や若年層からは見向きもされずに終わってしまう趣味になるだろう。
(観測写真の部を作ったのは大変良い事だと思っています)
と、、貧乏人の小言はこのくらいにして、純粋にすばらしいアストロカメラなのだと思います。
私も買えはしないが一度は使い倒してみたいものである。 どなたかこの不憫な管理人に
しばらくεを貸してやってください。 借りたら気にいってもうお返ししないかもしれませんが(笑)
■イメージサークル
天体望遠鏡の視野で十分な明るさを持つ範囲の事。
円形になるので何φのイメージサークルがあるというような表現をする。
拡大光学系は周辺に行くほど像が暗くなり収差が増大する傾向があり、
特に天体写真を直焦点法により行う場合にイメージサークルは重要な要素。
反射望遠鏡は副鏡の大きさによりイメージサークルが制約されるため、屈折式のほうが広いイメージサークルが
得やすい。 中でもタカハシのFSQやビクセンで過去に発売されたDEDのようにレンズの後郡をおおきく
後ろに離したペッツヴァール式は80φ近い巨大なイメージサークルが得られるために中判カメラで
広がりのある写真を楽しむ天文ファンに人気のある形式である。
なおイメージサークルが広いだけならば比較的安価なものにも存在するが、周辺まで小さな星像を保持できる
フラットなものは大変高額となる為辛いものがある。
また、イメージサークルの範囲を超えたフォーマットのカメラで撮影すると黒い枠の中に丸く星空が
あるような写真になるが綺麗に円形にトリミングして「円形写野」で狙うのもオツであるが最近やる人が少ない。
■ I I (イメージインテンシファイヤ)
暗視装置の一種。 光電子倍増管を用いて、光子を電子に変換、アンプで増幅する仕組みで暗闇でも
ものが見えるようにできる。 天体観測でもこのIIを利用する事が流行った時期があるが
現在は感度の高いCCDに置き換わっているようである。
■色収差
レンズを通過した光がプリズムの原理で各波長にバラけてしまい、すべての色が一点でピントを
結ばない為に発生する収差の一種。 収差とは理想的な像をさまたげる各種の光学的エラーの事だが
この色収差はレンズを用いる屈折式天体望遠鏡にはつねに付いて回るやっかいものである。
レンズはプリズムの連続体ともいえるからどうしても発生する。 そこで屈折率の異なる複数のレンズや
できるだけ各波長で焦点がバラケない(分散しにくい)ガラスを採用することでこの収差を抑え込む。
F値(口径に対する焦点距離の比。短いほど明るい)が小さいほど克服するのが難しくなる。
実際に色収差が発生すると、星の周りに虹色だったり、補正しきれなかった特定の波長の色が
滲んだようにまとわりつくが、Fが長いと入射角が鋭角となりあまりめだたなくなる。
逆にFが短いと鈍角に出てきた光を見ることになるので広い面積で滲むように見える。
色収差を抑えてシャープな惑星像を観察したいならばFが9以上の屈折望遠鏡を使うといい
というのが昔からの定説だったが今でもそれは変わらないと思う。 なおミラーを使うために
原理上色収差が発生しないのが反射望遠鏡である。
■インナーフォーカス
光学系の全長を変化させることなくピント合わせを出きるようにした合焦機構。
複数枚のレンズ郡から構成される光学系の場合、途中にあるレンズの配置を変化させることで
ピント合わせを行うことができる為、前玉を固定したまま後郡のいずれかのレンズを前後させて
合焦させる。 天文ファンの方なら星を見る際の双眼鏡にインナーフォーカスが採用されているかどうか
気になる人がいるかもしれない。 旧来の双眼鏡の多くは接眼側のレンズを繰り出すことで
ピント合わせを行うが、出入りする部分のある構造より防水にするのに難があった。
インナーフォーカス式であれば閉じた空間の中でレンズを動かすことができるので防水構造を維持しやすい
というメリットがある。 また全体をコンパクトに設計することが可能になるなどもあり見逃せない。
カメラレンズでもオートフォーカスが普通となった今、インナーフォーカスのものが勢力を
伸ばしている。 重たい前玉を駆動するより、内部にある小さいレンズを駆動させたほうが機敏な動作が
できる。 普通の天体望遠鏡では、ラック&ピニオン式の接眼部が伸びたり縮んだりするが、
いうなればアウターフォーカスとでもなろうか。